1) 昨午度マーカー遺伝子としてβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだ非増殖性アデノウイルスベクターをヒト軟骨細胞様細胞株HCS-2/8細胞にin vitroで導入し、X-gal染色にて導入遺伝子が少なくとも3週間持続発現することを確認したが、今年度はまずウサギ膝関節軟骨細胞および顎関節軟骨細胞を初代培養し同様の実験を行った。即ち、両細胞にコンフルエントに達した二日後に上記のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだりコンビナントウィルスをmoi20から50で感染させ遺伝子導入すると、導入遺伝子が少なくとも3週間持続発現することをX-gal染色にて確認した。 2) ウサギ膝関節軟骨細胞を用いて、インターロイキン-1が一酸化窒素を介してマトリックスメタロブロテイナーゼおよび線維芽細胞増殖因子を誘導することが関節炎発症の一機序であること見出した。すなわち、これらが遺伝子治療の一標的となる可能性を示唆する知見を得た。 3) 昨年度は、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだ非増殖性アデノウイルスベクターをモルモットの膝関節腔内に注射し、X-gal染色にて滑膜のほとんど全域と一部の変性軟骨表層に遺伝子が導入されていることを明らかにしたが、本年度は同様の方法で、P-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだりコンビナントウィルス4.8x10^7pfuをモルモットの顎関節腔内に26ゲージ針で注射し、導入遺伝子の発現をX-gal染色で調べた。その結果、顎関節では膝関節とは異なり、側頭結節の関節表層と関節円盤の線維軟骨細胞と滑膜に遺伝子が導入され、少なくとも4週間に亘ってβ-ガラクトシダーゼ遺伝子が発現し続けることがわかった。なお、肝臓や腎等の他の臓器への導入遺伝子の拡散がないことをRT-PCRで確認した。したがって、本法を用いることにより、顎関節症の遺伝子治療が理論的に可能なことが証明された。
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