低温における歯牙保存の成功には温度、保存液等の保存条件の検討のほかに、抜歯操作により損傷した歯根膜組織の再生力を何らかの方法で増強することも有効と考えられた。そこでplatelet-derived growth factor(PDGF)が歯の再植時に歯根膜損傷部の組織反応に与える影響を検討する目的で実験を行った。前歯と第一前臼歯(計48本)を抜去し、根中央部の歯根膜線維を3ミリ幅で根全周にわたり除去し、境界部にノッチを付与した。PDGF群は5μgPDGF含有アテロコラーゲン50μl塗布し、AC群はアテロコラーゲンのみを50μl塗布し、対照群は何も塗布せずに再植した。再植2週間後に根管処置を行い、2、4、8週後に病理組織観察と組織計測を行った。その結果、骨性癒着量は、PDGF群が全期間で3群中最も少なく、AC群は再植4週後に増加した後8週後に減少し、対照群は全期間で3群中最も多く、統計学的には再植4週後のPDGF群とAC群、PDGF群と対照群、再植8週後のPDGF群と対照群の間で有意差が認められた。根面の残存セメント質は全群で経時的に吸収が進み8週後にほとんど消失した。新生セメント質の形成は、PDGF群が3群中最も多く、再植4週後のPDGF群と対照群、8週後のPDGF群と対照群、AC群と対照群の間に有意差が認められた。以上の結果から、PDGFは再植時の歯根膜損傷部の骨性癒着を抑制し、歯根膜とセメント質を再生する上で有効性が高いことがし示唆された。
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