研究概要 |
咀嚼運動はcentral pattern generatorで形成され、末梢および中枢性に制御されて円滑に営まれるが、歯の欠損を伴う咀嚼系の老化については未解決なことが多い。加齢変化(Aging)に関して、四肢における随意運動や脳神経系を運動関連脳電位、脳波と誘発電位、事象関連電位を用いた研究は多いが、咀嚼運動と脳の関係は十分明らかにされていない。そこで本研究では、随意運動に先行して出現する陰性緩電位である運動関連脳電位(Movement-related cortical potentials:MRCPs)の準備電位(Bereitschftspotentiale:BP)やnegative slope(NS')や背景脳波の観察から咀嚼運動調節機構の中枢機序とその加齢変化を検索することを試みることっとし、一般脳波解析に加えてMRCPs,BPなどを指標として評価できれば咀嚼運動調節の中枢機序も明らかにできると考え本研究を着想するに至った。しかし、咀嚼系の脳波解析では、大脳に近い咀嚼筋のアーチフェクトの混入が避けがたいという問題がある。そこで、初年度にはまず種々の分析パラメータを確立することとした。正常有歯顎者を被検者とし、テクスチャーの異なる各種食品咀嚼時(開始から嚥下まで)の前後、嚥下動作の前後などさまざまな条件下で脳波を国際10-20方式にて記録、トポグラフィーや周波数分析などを行うと共に脳波リズムや背景脳波(Reactivity)もあわせて観察し、顎運動と筋電図所見と対比して分析パラメータの妥当性を検証した。その結果、(1)咀嚼運動の開始直前と嚥下動作終了の直後の脳波においては、α波とβ波の分布が変化し、咀嚼運動後にはα波が増大する傾向を認め、このことは食品の種類によって異なることが分かった。次年度は、意識的な咀嚼運動開始時のMRCPS,BP,NS'の記録・分析を、(1)若年から高齢までの各年代層別に行う、(2)無菌顎者(総義歯)における咀嚼運動の中枢機序を考察し、加齢の影響を検討する。
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