研究概要 |
薬物副作用による歯肉増殖症の発症機構とアポトーシス関連癌遺伝子との関係について調べるために,ニフェジピンとフェニトインにより誘発された13例の増殖歯肉組織と8例の対照歯肉の上皮においてbc1-2,c-mycのそれぞれのproto oncogeneの発現について調べた。bc1-2の発現は,増殖歯肉13例中全例に,また対照歯肉でも8例中全例に認められた。しかし,増殖歯肉では基底細胞層と有棘細胞層の上皮細胞の核に認められたのに対して,対照歯肉では基底細胞の核に限局した発現であった。bc1-2には細胞の分化とアポトーシスを阻害する作用のあることがわかっており,増殖歯肉上皮でのbc1-2の発現の増加により上皮細胞の分化が抑制され,また細胞の寿命が延長されているものと考えられる。一方,c-mycの発現は増殖歯肉13例中10例に,また対照歯肉8例中3例に認められ,有棘細胞層の細胞の核に発現していた。c-mycには上皮細胞の増殖を促進する作用がある一方で,アポトーシスを誘発する作用がある。そしてこのアポトーシス誘発作用がbc1-2により阻害されることが報告されている。したがって,bc1-2はc-mycがアポトーシスを引き起こすことなく,上皮細胞の増殖を促進するということを可能にしていると推測される。これらのことから,上皮細胞の分化とアポトーシスに対するbc1-2の阻害作用ならびにc-mycとbc1-2の相互作用による上皮細胞の増殖促進が,歯肉増殖症の有棘細胞層肥厚に関係していると考えられた。
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