研究概要 |
歯の移動による痛みの発現のメカニズムの一端を明らかにするために、本研究では、歯の移動時における二次ニューロンの変化に着目した。まず、Waldoの方法に準じてラット上顎片側臼歯を実験的に移動させた後、移動開始後1,2,4,12,24時間後に灌流固定を行い、歯根膜神経が投射する三叉・脊髄路核群(spinal trigeminal nucleus complex)の連続凍結切片(厚さ約50mu)を作成して、痛覚関連蛋白の一つであるとされるFos蛋白の発現の変化を免疫組織化学的に検索した。Fos蛋白の免疫染色は、浮遊切片の状態で一次抗体としてポリクローナル抗c-fos血清を用いたABC法により行い、DABにて発色させた。免疫染色後、各切片を光学顕微鏡にて25倍に拡大し、三叉神経脊髄路核尾側亜核におけるFos-immunoreactive neuron(Fos-IR)の時間経過について調べた。なお、反対側を対照側とした。 その結果、実験側では、対照側と比較して移動開始1時間後よりFos-IRの数が増加し、移動開始後2時間で最大値に達した。その後Fos-IRは減少を続け、移動開始後12時間後にほぼ開始前の状態に戻ることが示された。 従って、以上の所見から、歯の移動という外来刺激により、二次ニューロンにおける痛覚関連物質の一つFos蛋白の発現が、移動開始初期においては時間依存的に変動していることが明らかとなった。 しかしながら、Fos-IRは侵害刺激のみならず種々のストレスによっても発現することが知られていることから、今後は、侵害刺激抑制剤投与下において歯を移動させた場合におけるFos-IRの発現様相について検討していく予定である。
|