矯正学的歯の移動に伴う歯根膜の弾性線維の発現は、細胞に対する細胞外マトリックスの固相効果の力学的な変化に起因している可能性がある。細胞内微小器官や接着因子の構成要素を細分化して評価することが重要であり、微細構造学的な変化から、歯根膜を構成する細胞外マトリックスの三次元メッシュワークを明確にすることを目的とした。 研究方法 実験動物としては、体重10Kg前後の成犬(雄)を用いる。被験歯は大臼歯とし、矯正学的歯の移動は、超弾性open coil springにより近心移動を行った。7、14、21、28、56日目に屠殺し、光学顕微鏡、走査電子顕微鏡の観察を行った。また、既存の歯根膜粘弾性解析装置を用いて、各過程における機能的状態を評価した。 (1)光学顕微鏡による観察 弾性線維系の存在を確認するために、切片には、レゾルシンフクシン染色、ならびに0.3%過マンガン酸カリウムと0.3%濃硫酸の等量混合液による前酸化処理併用レゾルシンフクシン染色を施し、オリンパスBH-2光学顕微鏡で観察した。 (2)走査電子顕微鏡による観察 歯根膜弾性線維系の観察は、凍結割断された試料を、KOH-コラゲナーゼ法で処理した。また、細胞内微小器官の観察は、AODO法を用いた。 上記の走査電子顕微鏡の観察試料には、1%四酸化オスミウム溶液(4℃、3時間)と2%タンニン酸溶液(4℃、4時間)による導電染色、上昇アルコール系列による脱水、臨界点乾燥を順次行う。試料の観察面には、白金バラジウムによる膜厚3^〜5nmのイオンコーティング(E-5450、Polaron社製)を施し、日立S-700電界放射型走査電子顕微鏡で観察した。 研究結果 弾性線維の形成は、矯正移動により歯の変位量とクリープ値の増加に相当して行われる傾向があったが量的な有意差は認められなかった。また、弾性線維を形成する細胞内小器官の形態的変化は、現在のところ明確には出来ていない。
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