一酸化窒素(NO)は生体内において一酸化窒素合成酵素(NOS)によりL-アルギニンを基質として生成するが、免疫系(i-NOS)で生成したNOは腫瘍細胞などを攻撃し、循環器系(e-NOS)で生成したNOは平滑筋を弛緩させることにより血圧を変動させ、神経系(n-NOS)で生成したNOは逆行性の神経伝達物質として機能している。NOの生成に関与する3種のNOSの選択的な阻害剤を見い出すことができれば、NOの機能解明や、NO関連の情報伝達系の解明に有用なツールとなるばかりではなく、NOの関与によって誘起される炎症等の治療に有効な薬剤の開発にもつながることが期待される。これまで開発されたNOS阻害物質のほとんどがL-アルギニンの誘導体であり、3種のNOSの間での選択性に問題が残されている。従って、新しいタイプのNOS阻害物質の開発が望まれる。本研究では、海洋生物を素材として新しいタイプのNOS阻害物質を開拓することを目的とする。 海洋無脊椎動物(海綿、ホヤなど)および海洋微生物(微細藻類、細菌、真菌)の抽出物について、NOSに対する阻害活性を指標にスクリーニングを行い、顕著な阻害活性を示した抽出物について、各種クロマトグラフィーを多用しながら活性物質の分離、精製を検討中である。一方、海洋生物より既に単離されている数多くの新規ならびに既知化合物についても、NOSに対する阻害活性を指標にスクリーニングを行った結果、数種の化合物に弱いながら阻害活性が認められた。現在、活性の認められた関連化合物についても、NOSに対する阻害活性を検討中である。また、顕著な阻害活性が認められた化合物について、3種のNOSに対する選択性を比較検討する予定である。
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