研究概要 |
ヒスタミンH_3(H_3)レセプターを巡る創薬研究において、H_3アゴニストは、新しい気管支喘息の治療剤に、またアンタゴニストは、アルツハイマー病などの抗痴呆薬として期待されている。我々は、H_3リガンドの立体構造と作用発現の関係が未だ不明であることに着目し、新しいH_3アゴニストとして新規シスおよびトランス-イミダゾールC-ヌクレオシド1,2を設計し、それらのラセミ体の合成を行った。これらの化合物の薬理実験は、トランス形のラセミ体が、脳内ヒスタミンの遊離を強力に抑制することを示した。この発見から、我々の当面の課題は、これらのエナンチオマーを立体選択的に合成し、薬理実験でその活性本体の構造を決定することにあった。我々は、種々検討し、PhSe基を活用した新規C-ヌクレオシドの合成法を開発することで4つの可能な異性体すべての合成に成功した。これらの化合物は、大阪大学医学部、大和谷教授らにより脳微小透析法によってin vivo実験が行われたところ、4(5)-(5-amino-2,3,5-trideoxy-α-L-glycero-pentofuranosyl)imidazole(L-ICN-2)のみがH_3アゴニストであることが明らかとなった。その作用は、既存のH_3アゴニスト、イメピップに相当する強力なもので、H_3アンタゴニストのクロベンプロピットとも完全に拮抗したことから、その作用発現はH_3レセプターを介したものであることを強く支持した。従来の理論計算の結果は、生理活性発現にはH_3アゴニストの分子内水素結合の重要性を強調しているが、L-ICN-2ではそれをとることができないため、生理活性発現には分子内水素結合は本質でないということを初めて実験的に示す興味深い結果を得た。さらにL-ICN-2は、我々の知るかぎり糖部分が非天然形α-L-立体配置をもつ最初の生理活性物質である。これらの成果は、現在J.Med.Chem.にCommunicationとして投稿中である。
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