研究概要 |
Tリンパ球腫Jurkat細胞を無血清で培養する際,亜セレン酸を加えないと,細胞は2日目に細胞のサイズの減少を認め,約3日で死滅する.2日目の細胞に亜セレン酸を添加して更に培養を続けると,添加されたSe濃度に依存して細胞は生存維持・増殖することが観察された.また,^<75>Se標識亜セレン酸と細胞内Seの低下したHL-60を12時間反応後,細胞質画分をSDS-PAGE/イメージアナライザーで解析したところ,複数の機能不明なSe含有蛋白質の生合成に伴う発現を認めた.この放射標識Se含有蛋白質の発現量は,加えたSeの濃度に依存するが,低濃度Seで速やかに発現する場合と,高濃度のSeで初めて発現する場合がある.この点に注目し,可変量の^<75>Seと反応した細胞を電気泳動で解析し,それぞれのSe含有蛋白質の発現量と添加Se濃度との関係を解析した.この結果と上述の細胞増殖活性と添加Se濃度との関係を比較し,細胞増殖活性の発現と平行して合成されるSe含有蛋白質を探索したところ,分子量57Kの蛋白質が候補の一つであった.ごく最近57KのSe含有蛋白質としてチオレドキシン還元酵素が報告された.そこで,ヒト胎盤を出発材料に,イオン交換クロマトグラフィー,アフィニティークロマトグラフィーによりチオレドキシン還元酵素を分離・精製した.報告どおり,精製標品は1モルあたり約1モルのセレンを含んでいた.チオレドキシン還元酵素の細胞増殖因子としての可能性を解析するために,現在,単クローン抗体を調製している.
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