研究概要 |
1.46名の生体肝移植患者の術後におけるヒト肝アルギナーゼの血中動態について検討した.その結果,肝障害の際,本酵素はAST,ALTよりも逸脱しやすく,また血中半減期の短い,著しい変動を繰り返すことが明らかとなり,肝障害のマーカーとしての有用性について報告した(Clin.Chim.Acta,Vol.271,No.1,11-23,1998).ラットを用いた動物実験においても,同様の変動が実験的にも示され,American Gastroenterological Association and American Association for the Study of Liver Diseases(1997)の大会において,その成果を発表した. 2.ヒト肝アルギナーゼの血中半減期が短い一つの理由は,肝細胞から逸脱した本酵素が白血球,とくに好中球の細胞膜表面に速やかに結合することによると考え,その結合性について,フローサイトメトリーおよび蛍光標識ヒト肝アルギナーゼを用いて検討し,その事実を明らかにしてきた.その成果の一部は日本生化学会(1997年)において発表した.この事実に基づき,白血球からヒト肝アルギナーゼ結合Sepharose 4Bカラムに親和性の高い蛋白質を分離した.現在,その蛋白質の生化学的諸性質について詳細に検討中である. 3.白血球に結合するアルギナーゼが肝細胞由来のものであるか否かを知ることは,重要な意味を有する.そこで,nested PCRにより白血球内におけるヒト肝アルギナーゼに対するメッセンジャーRNA(mRNA)の有無について検討したところ,本酵素に対するmRNAはまったく発現していないことが判明した.この事実は白血球に結合しているアルギナーゼは肝細胞由来である可能性の極めて高いことを示唆するものであり,その成果を日本生化学会(1997年)において発表した.さらに,ヒト赤血球中アルギナーゼの遺伝子配列はヒト肝アルギナーゼと同一の配列を有することが明らかとなり,これらのアルギナーゼは互いにisoformの関係にあることが,本研究により初めて証明された(未発表).
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