1. 目的 養護老人ホームに入所している高齢者と地域に在住している高齢者を対象に、愛他的行動(自発的に他者を思いやり助ける行動)並びにその意義・理由について記述的研究により明らかにし、高齢者の生活の質との関連性、意志決定プロセスを検討した。 2. 方法 調査対象:山形県下の4施設の養護老人ホームの入所者104名(平成9年度)。青森市内S町に在住する高齢者57名(平成10年度)。調査方法:半構成的質問紙による個人面接調査。調査内容:個人属性、具体的な愛他的行動とその時の状況、愛他的行動を行う意義・理由。分析方法:調査対象者の了解を得て、面接内容をテープレコーダーに録音し、逐語録を作成した。逐語録をもとに内容分析し、コード化・カテゴリー化し、平成9年度と平成10年度の調査結果の共通性と相違性を検討し、高齢者の愛他的行動の概念枠組みを作成した。 3. 結果 (1)高齢者の愛他的行動は、共通して、「世話」「交流」「配慮」「調整」「方向づけ」「保護」「分与」の7カテゴリーが抽出され、他にホーム入所者では「自立促進」、地域在住者では「尊重」が抽出された。(2)高齢者の愛他的行動の意義・理由では、共通して、「相互依存」「価値観」「愛情」「自尊」「自己成長」の5カテゴリーが抽出され、ホーム入所者のみ「受容」が抽出された。(3)高齢者の愛他的行動に至る状況は、高齢者が属する社会的規範や個人的規範に左右され、また、労力・経済力・心身の状況によって愛他的行動の援助内容に違いがみられた。 4. 考察 (1)高齢者の愛他的行動は、施設入所の有無に関係なく多岐に渡っており、看護学・社会心理学分野のこれまでの研究の類型と類似点も多く、他者を思いやり助ける行動は専門家・非専門家を問わず、また年齢に関係なく普遍的現象であることが支持された。(2)ホーム入所者では「世話」「交流」「調整」、地域に在住する高齢者では「配慮」「交流」「分与」の内容が多く語られたことから、愛他的行動のカテゴリー順位は高齢者のおかれている環境下で異なることが推察された。(3)愛他的行動を行う個人的意義または理由は、高次のニーズに基づくもので、自己の肯定的認識や自己実現に関連しており、高齢者の生活の質的向上に影響することが示唆された。(4)高齢者の愛他的行動の意志決定プロセスは、高齢者がおかれている社会的規範並びに個人的規範、個人の労力・経済力・心身の状態によって制限され、他の個人属性とはほとんど関連性が見出せなかった。
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