「モバイル(移動体通信)」は、よりいっそうブームを呼ぶのか、それとも一過性のブームで消えてしまうのか。 私の予感では、20世紀末から来世紀へつづく「ミレニアム(千年紀)」の変わり目におけるキーワードとなりそうだ。 まず英和辞典で、“mobile"の項を引いてみよう。1)移動できる・機動力のある、2)流動する、3)表情の豊かな…とあって、たとえば“mobile house"は移動式住宅(トレーラーハウス)、“mobile police"は警察の機動隊である。 基本的には、流行語としての「モバイル」は、さきの英和辞典の“mobile"の用例1)に該当するが、もっと曖昧で、多義的である。歴史的に推理してみると、次の3つの意味の地層が、時代を超えて積み重なり、20世紀末日本の流行語として、微妙なニュアンスを獲得したのではないか、と思われる。 (1)「家」具(家から分離された動産)の時代 (2)自「動」車(家に依存せずに移動する個室)の時代 (3)移動「体」(からだに身につける情報通信端末)の時代 この新しいライフスタイルは、おそらく一昔前なら、お行儀の悪い[ながら族」として、年長者に叱責され、嫌悪されたに違いない。もちろん、現時点でも、ところかまわず鳴る携帯電話への非難・バッシングに象徴されるかたちで、激しい批判にさらされている。が、少なくとも「モバイル」という魔法の呪文によって、いささかせわしない「ながら族」的行動パターンが、マルチメディア時代のビジネススタイル、レジャースタイルとして賞賛される傾向も強まってきている。
|