バングラデシュでかつて収集した18〜20世紀のマラリア関係の史料・統計等を、今年度に東京大学東洋文化研究所に日本学術振興会の招聘で来日しているダッカ大学歴史学教授のロトン・ラル・チャクラボッルティ氏とともに取捨選択した。さらに東京大学・東京外国語大学・お茶の水大学・アジア経済研究所、国会図書館、東洋文庫、京都大学・長崎大学等で収集した新資料も加えて、『湿潤アジアにおけるマラリア・湿地開発・行政史料集1』として刊行すべく、準備中である。 また、ベンガルデルタのみならず、東南アジア・東アジアのマラリアに関しても上記の機関等で収集し、学生アルバイトを用いて入力中で、これらに関しては『史料集2』としての刊行を次年度以降に考えている。今年度、そのうちのミャンマー関係の史料の校閲・情報を受けるために、3月に8日間、首都ヤンゴンの公衆衛生局のマラリア担当官やヤンゴン大学の歴史・地理学研究者に刊行予定のマラリア史資料についてレビューをうけた。 いまだ分析の途中であるが、これまで判明した若干の知見を列挙する。1)ラヴェランによるマラリア原虫の発見(1880)、ロスによるマラリア原虫がハマダラ蚊属を媒介として人間に寄生する経路の解明など、20世紀への転換点の前後で、マラリアのもつ社会史的意義を分けて考察する必要がある。2)ベンガルデルタの湿地開発に関して、植民地行政官の間でも、とりわけ土木・鉄道技術者と公衆衛生行政官との見解の相違がみられる。3)マングローブ地帯であるベンガルデルタのシュンダルバンやイラワジデルタではAnopheles sundaicusが支配的で、山間・丘陵部のA.minimusとは生息生態環境に違いが見られ、その地域住民の対応(マラリアに対する迷信、伝統的処方、防止法)も区別して考える必要がある。
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