「音痴」は、病理学的に、音高、拍子、リズム、音量などを聞き分ける能力が欠落しているか、不完全な状態である感覚性音痴と、そのような感覚はあっても、いざ歌うとなると正しく表出できない運動性音痴の二つに大別される。一般的な辞典や専門の音楽辞典にも載っている用語で差別用語ではなく、広く一般社会に自然に定着している言葉なので、本研究においてはこの言葉を用いることにした。「音痴」という用語はもともと音楽に関する言葉であるが、今日一般的には「 〜 音痴」というように単にある方面に関して鈍感なことを示し、他の概念と重ね合わせることで意味合いが明らかになる側面がある。例えば味覚音痴、運動音痴、ちなみに私自身は重度の方向音痴、現在ではコンピュータ音痴にゲーム音痴等数えはじめればきりがない。この例に倣って歌う際に音程やリズムが不正確になってしまうことを「歌唱音痴」とし、さらに歌唱音痴を運動性音程音痴と運動性リズム音痴、感覚性音程音痴と感覚性リズム音痴に分けて命名することにした。 喉頭の甲状軟骨が輪状甲状筋の緊張によって前方向に傾斜し、声帯を進展させることが音高を決定している主な要因であるが、それが不随意筋であるため直接コントロールすることはできない。これを条件反射させ矯正するには発声のための的確な条件設定(音高・音強・母音)が必要であり、今日まで主に学生を対象に約100例程実験を行ってきたが、かかった時間の差はあるものの、全て矯正可能であった。 1998年5月に日本声楽発声学会(全国レベル)での研究発表「メイン:運動性音程音痴矯正法(サブ:音高を決定する発声メカニズムの解明に基づいた矯正の試み)」、10月アメリカ合衆国ニュージャージー州立ウィリアムパ-タソン大学の招聘でこの研究に関する講義及びワークショップが予定されている。
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