1.研究所の背景-国際化の趨勢に伴い、日本でもバイリンガル研究は避けて通れない課題となった。しかし、バイリンガアル児の言語習得・中間言語能力及び、心身への影響に関する学問的な解明は、日本では殆どなされていない。 2.本年度の研究課題-本研究の代表者は、同時バイリンガル(Simultaneous Bilingualism)のケーススタディーとして日英両言語同時習得児(以後Tと呼ぶ)の言語発達の全体像を明らかにする縦断的実証研究を行ってきた。本研究は、その一環として行ったものであり、同時バイリンガル児の2〜3歳児の言語の識別能力を解明することを目的とした。バイリンガル児の複数言語の混乱を説く単一言語システム説では、3歳時を言語発達の第二段階と見なし、単一言語システム(混乱)の根拠の一つとして同義語の発話が検出されていないことを掲げている。 3.本研究の結果-日常生活でTが、2〜3歳時に話している機会をできるだけ多く捕らえた録論を丹念に文字化・分析を行った。その結果、数多くの同義語(約100種)の同義語が検出された。今後引き続き分析を行うべき資料に、(1)Tの心身や言語の発達の様子を詳しく研究代表者が毎日記録した育児日誌、(2)Tが通った保育園の保母によりTの様子が週日ほぼ毎日記録されている連絡帳がある。これらの分析から更に同義語が検出されることが予想される。いずれにせよ、同義語の産出を証明し、複数言語システム説の動かし難い証拠を提供し得た。また、上記の日英の同義語が無秩序に産出されているのではなく、話し相手や場所等により巧みに使い分けがなされていることも明らかとなった。同義語の機能、日英の切り替えの目的・理由についての分析は、興味深い課題として今後に残された。
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