本研究は平成9・10年度の2ヶ年間で行うことを予定しており、本年度はその初年度として以下の計画により研究を進めた。 1.文音声中の語句(単語および文節)のゲシュタルト的認知に関する心理実験 文音声中の語句またはその一部分の情報を系統的に除去ないし減少させ、語句の認知に与える影響を系統的に調べている。具体的には音声の一部分に対して、無音区間で置換する操作、またはその部分の時間・周波数分解能を下げる操作をほどこした。この場合、 1)この操作の対象とする音声区間の種類・大きさ(単音/音節/形態素/単語/文節) 2)この操作の対象とする音声区間の発話中での位置(句頭/句中/句末) 3)この操作の対象とする語の文中での位置(文頭/文中/文末) を系統的に変化させて、語句の認知の難易を、正答率と反応時間の両方を指標として測定した。 本年度の実験は予備的段階のものであるが、すでに 1)文音声の語句の認知の単位は、単音や音節ではなく、むしろ形態素・単語・文節のようにより大きく、意味上の単位と考えられる。 2)発話中での位置が認知に及ぼす影響は、句頭で認知が最も困難であり、句中・句末の順に認知が容易になる傾向が見られる。 3)文中での位置が認知に及ぼす影響は、文頭で認知が最も困難であり、文中・文末の順に認知が容易になる傾向が見られる。 ことを示唆する予備的な結果を得ている。なお、これらに関しては平成10年度にさらに規模を拡大した実験を行う予定である。 2.連続音声中における語句認知過程のモデルの構築 上記の実験の結果(ある程度までの情報の欠落あるいは減少が、連続音声中の語句の認知にほとんど影響を与えないこと)を定量的に説明しうる語句認知過程のモデルについて検討を行い、予備的なモデルを構築した。
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