計算機や電子楽器の発達により、計算機を用いた音楽の演奏や音楽放送が盛んになってきた。それに伴い、機械的な演奏からより人間らしい演奏へ近付ける研究の重要性が増している。研究代表者は、複数のピアノ演奏者の演奏データと楽譜データとの詳細な比較により人間が補う演奏データを抽出する研究を行なってきた。 本研究では、コンピュータによる自動演奏を、機械的な演奏からより人間に近い演奏にすることを目指している。解析データには、楽譜情報が詳細に記述されているクラシックピアノ演奏を用いた。世界的著名な5名のピアノ演奏者のピアノ演奏データと楽譜データの対応づけを行いメロディーやコードの揺らぎ、曖味な表現などについて詳しく議論した。実際のピアノ演奏データ間の対応づけは、3000符以上のデータから和音同士のマッチングを行なうために、先ずクラスタリングを行なう新しい_<DP>マッチングを提案した。この新しい_<DP>マッチングにより_<98%>以上の成功率を達成できることを明らかにした。一般に、上級奏者の演奏データは、個性や演奏・録音環境に依存するため、同一曲の演奏データ間の解析から個性や環境に影響しないと考えられる標準的演奏データの構築方法の提案を行なった。標準的演奏データの構築には発音時刻、音長やベロシティの正規化を行う手法を与えたりローカルなテンポ抽出とペダル操作の検討を行なった。 提案した構築手法によりコンピュータにより自動生成した標準的演奏データの波形は、ベロシティーやテンポともに上級奏者の演奏データに全体的に類以していることを示した。また、37名による標準的演奏データの試聴実験を行ないその聴衆印象の解析を行なった。その結果、標準的演奏データは、自然ではあるが好きでない演奏という回答が得られ、上級奏者の個性をある程度なくした自動演奏を達成できることを明らかにした。この標準的演奏データと情動分析を基にして、個人のメロディーやコードの揺らぎ、曖味な表現などの人間が補うべき情報を明らかにして人間らしい情緒あるピアノ自動演奏の基礎研究を行なう。
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