近年実用化されたGSO結晶は、熱中性子に対して高い検出効率を有するシンチレータであることが我々の最近の研究から分かっており、環境中性子と太陽フレアとの相関を調べることを可能にすると期待される。しかしながら、ガンマ線に対しても高い感度を持ち、中性子/ガンマ線の織別も難しいため、バックグランド除去が実用化のための大きな問題となっている。 今年度は、GSO結晶シンチレータを環境中性子測定器として実用化することを目標にして、中性子/ガンマ線の識別のための研究を行った。GSOによる中性子検出は、中性子捕獲反応に続く遷移カスケードの最終過程に放出される内部転換電子を測定することに基づくので、原理的にはGSO単独での中性子/ガンマ線分離は不可能である。そこで、GSO結晶をプラスチックシンチレータで囲み、両信号の遅延同時計数により中性子事象とガンマ線事象とを分離する手法を試みた。TACを使用して時間相関を詳細に調べた結果、15ナノ秒の遅延時間でガンマ線事象をほぼ完全に分離できることがわかった。このことにより、GSOの熱中性子応答スペクトルにおけるピーク構造が更に明確になり、中性子/ガンマ線分離の成功とともに中性子検出の精度を向上させることもできた。一方では、モンテカルロシミュレーションコードを開発し、微視的な調査も行った。プラスチックシンチレータに誘起される波高スペクトルは、モンテカルロ計算によるフォールディングスペクトルとよく一致しており、中性子スペクトロメータとしても使用可能であることが分かった。 来年度は、数10keVの中性子を測定できるように装置を改良し、時系列測定を試みる。
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