研究概要 |
チェルノブイリ事故後の小児甲状腺癌の成因,発生機構を明らかにするためのラット実験モデルを開発するに当たり、昨年から続き、若齢ラットの^<131>I内部被ばく線量を推計し、急性,亜急性の被ばく影響を観察した。内部被ばく線量は、被曝時年齢に依存するので、異なる被ばく時年齢を設定し、比較観察した。 方法) ^<131>Iをトレーサーとしてラットに投与し、各臓器(甲状腺,末梢血,全身)組織の取り込みを経時的に測定し、各年齢時の被ばく線量を明らかにした。乳仔期,思春期,成熟期F344系ラットに131Iを投与し、384時間の放射活性を測定し、被ばく線量を算出した。全身臓器への被ばく影響を明らかにするため、甲状腺,肝,腎,脾の被ばく線量を推計し、病理学的に検索した。 結果) 1. 甲状腺の、β,γ線の吸収率を球形モデルで求めた。これにより、あらゆる甲状腺サイズに対して、被ばく線量を算出可能にした(Endo et al.,1998)。γ線活性を線量に換算し、年齢別被爆線量標準曲線を求めた。これは、あらゆる投与活性に対して、1,4,9週齢時の全身,甲状腺被ばく線量を推定可能にした。1週齢ラットの全身および甲状腺の被ばく線量の、4,9週齢に対するファクター(8:全身および5:甲状腺)を求めた(新田ら,1998)。 2. 全臓器を病理組織学的に検索した.甲状腺は131I投与後12時間目に最も萎縮し、その後回復した。胸腺の萎縮が、検索期間を通して認められた。TUNEL法による検索で、脾リンパ球のアポトーシスが6時間目に最も多く以後減少した一方、甲状腺上皮は抵抗性であった。 3. 肝.腎,脾,末梢血の被ばく線量当量は低値で相互に差はなかった. チェルノブイリ事故後の小児甲状腺癌では、RET遺伝子の逆位による活性化(再構成)が報告されている.RET遺伝子再構成は、放射線被ばくによる甲状腺癌の特徴である.ret遺伝子再構成を、ラット実験モデルで捉えるために、FISH法に用いるretプローブを作成し、染色体上にret遺伝子をマップした. 方法と結果) マウスBACライブラリーから、ret遺伝子配列を含むクローンを抽出し、マウス染色体をターゲットとして、FISH法でマッピングした(Nitta et al.,1999).マウスretとラットretの塩基配列相同性は97%以上であるので、このプローブはラット実験モデルでも使用できる.
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