【平成9年度の研究実績概要】近年の遺伝子クローニングを中心とするバイオテクノロジーの発達は、構造生物学の有力な方法論を提供する一方で、その発現蛋白質を触媒とする有用物質の酵素的合成への道をひらいた。特に、複雑な糖鎖構造を構築する目的に、保護や脱保護の必要がない酵素法は有望視され検討されている。しかし糖転移酵素を調整する段階で、発現蛋白質の不溶化や非分泌性等の問題があるケースも少なくない。発現細胞をそのまま利用できるバイオリアクター方式は酵素精製の必要がなく、この問題解決に有効と期待されるがほとんど未開拓である。本研究では、全く新しい萌芽的試みとして、外部から特異的に認識可能な切断性タグを組み込んだ人工基質を用いる糖鎖形成と変換を検討した。まず、光反射性糖鎖分子を合理的に設計するためのカギになる、極めて汎用性の高い光反応基の合成法開拓を検討した。トリフルオロメチルフェニルジアジリンは、比較的長波長で(約350nm)速やかに光分解し、クロスリンク能の高いカルベンを発生するため、光反応基として有用である。すでに我々は、ジアジリン三員環は化学的にはかなり安定なことを利用し、簡単な骨格のジアジリンを様々なジアジリンに誘導する方法を開発した。しかし有用性の高いジアジリン合成には、毒性の高いタリウム化合物を使用する必要があるなど、さらに改良の必要があった。今回、Friedel-Crafts反応のルイス酸として汎用されているTiCl_4を用い、合成上極めて有用なアルデヒド基をフェニルジアジリンの芳香環上に直接構築することに初めて成功した。これにより、アルデヒドを経由する様々な誘導化反応が利用可能となり、光反応性糖鎖分子の合成に便利な、種々のジアジリン誘導体を容易に調製する道を拓いた。
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