まず、天然の核酸モノマーを用い、進化分子工学によりターゲット分子を特異的に認識するオリゴ核酸が合成できるかを、サイロキシンをターゲット分子に選び、検討した。サイロキシンは甲状腺ホルモンのひとつで臨床分析上重要な化合物である。ランダム配列のオリゴDNAをサイロキシンを結合したゲル・カラムを通過させ、特異的に結合するDNAだけをPCR法で増幅するという操作を7回選別を繰り返すと、サイロキシンに結合するオリゴDNA集団が得られてきた(ターゲット分子に特異的に結合するオリゴヌクレオチドをアプタマーと称する)。得られたアプタマーは、サイロキシンと構造が類似しているリオチロニンには、殆ど結合しなかった。選別された集団のクローニングを行い、30クローンのDNA配列を決定した。すると8クローンに12塩基からなる共通配列が見いだされた。 次にアミノ基や、蛍光基、ビオチニル基を側鎖に有するヌクレオチド三リン酸が進化分子工学の手法へ応用可能であることを明らかにした。すなわち、これらのヌクレオチド三リン酸はランダム配列のDNAを鋳型として転写反応でRNAに取り込まれ、このRNAは逆転写酵素によりDNAになりPCR法での増幅が可能であることがわかった。 そこで側鎖にビオチニル基を有するシチジン三リン酸を用いて、進化分子工学によりアデノシン三リン酸(ATP)に結合するオリゴRNAを選別することに成功した。得られたアプタマーは側鎖に複数個のビオチニル基を有し、アビジンを用いて高い効率で検出が可能であった。このようにして人工的に機能化した核酸を用いて進化分子工学が可能であることがわかった。
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