平成9年度は当初の計画に従い、DNA自動合成機を用いたキメラDNAの簡便な合成法の確立、分光学的手法による三重らせん形成、及びその安定性に関する物理化学的研究を行なった。 以下に実績を記す。 1).3'・末端より15量体の鎖長を持つβ-DNA鎖を常法により合成した。引き続きこのDNAの5'・末端に対し、α-ヌクレオシド・3'・フォスフォアミダイト体を結合させ、15量体のα-DNA鎖を伸長させることにより、3'・末端側にβ-DNA構造、5'・末端側にα-DNA構造を持つI型キメラDNAを合成することに成功した。 2).遺伝子DNAのモデルとなる30量体程度の、二本の相補的β-DNAを合成した。 3).2)で得られた-DNAから形成される二本鎖DNAに対し、生理的条件下でI型キメラDNAを作用させ、温度可変役能を持つUV分光器を用いた測定により三重らせんの形成、及びその熱力学的安定性についての解析を行なった。 得られたUV吸光度の温度依存的な変化の解析から、I型キメラDNAは、標的となる二重鎖DNAに結合して三重鎖を形成する能力を持つことが示唆された。しかしその安定性は、対応するβ-DNAが形成する三重鎖に比べ、若干低下していることも示唆された。 4).3)の結果をさらに詳しく解析するため、標的となる二重鎖DNAを放射標識化し、これにキメラDNAを結合させた後電気泳動を行い、その泳動距離の変化を比較する、いわゆるゲルシフトアッセイ実験を行った。その結果I型キメラDNAは、標的二本鎖DNAに詰合して三重鎖を形成していることが確認された。
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