消化器潰瘍の研究の1つに、防御因子の研究がある。防御因子の研究は重要であるが、着目すべき分子がよくわからないなど分子レベルの研究が著しく遅れている。最近トレフォイルペプチド(trefoil peptide)と命名される因子に潰瘍治癒効果のあることがわかった。トレフォイルペプチドは約100アミノ酸残基からなり、3つのクローバー状構造(トレフォイル構造)を3個のジスルフィドにより形成する。この特徴ある一次構造が、どのようにして潰瘍治癒効果に結び付くのか興味深い。 トレフォイルドメインを有するペプチドにはpS2の他、SP(Spasmolytic polypeptide)、ITF(Intestinal trefoil factor)の計3種が報告されている。トレフォイルペプチドは、消化管粘膜の障害部位に発現量が高まるため、粘膜層の維持とともに潰瘍からの防御や修復に重要な役割を果たしていると予想される。報告者はその分子機序、特に細胞増殖に対する効果に注目した。 本年は報告者が既にクローニングしているラットITFのcDNAを用いて、ITFをGST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)との融合蛋白質として大腸菌に発現させ精製した。また、これをウサギに免疫し抗体を作成した。精製したITFを用いて、小腸上皮由来IEC-6細胞の増殖に及ぼす効果を検討したが、現在までに明らかな作用は見い出されていない。 このような知見を踏まえ、トレフォイルペプチドを発現する消化管細胞を同定し、適した腸管由来の培養細胞を用いてこのペプチドがどのような条件下に分泌されてくるのか刺激と応答の分子機構を解明するとともに、酵母のTwo Hybrid Systemを用いて、トレフォイルペプチドの受容体を明らかにする計画を進めている。
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