トレフォイルドメインを有するペプチドにはpS2の他、SP(Spasmolytic polypeptide)、ITF(Intestinal trefoil factor)の計3種が報告されている。トレフォイルペプチドは約100アミノ酸残基からなり、クローバーの3葉状構造(トレフォイル構造)を3個のジスルフィドにより形成する。トレフォイルペプチドは、消化管粘膜の障害部位に発現量が高まるため、粘膜層の維持とともに潰瘍からの防御や修復に重要な役割を果たしていると予想される。3種のトレフォイルペプチドがマウスのどの臓器に主に発現しているのかを、特異的なプライマーを設定してPCRを行ったところ、pS2は胃特異的に、SPは胃、膵臓、十二指腸に、ITFは小腸、大腸に発現していた。PS2の胃特異的遺伝子発現の機構を明らかにする手がかりとして、マウスpS2遺伝子5'上流域2kbをクローニングした。その結果、ヒトで報告されているエストロゲン応答配列は存在せず、胃にエストロゲン受容体がないことから応答しないこととむしろ一致していた。しかしながら、既知の転写制御因子の結合配列はAP1以外は認められず、これまで報告されていない因子による転写制御機構が存在していることが示唆された。マウス胃粘膜由来GSM10細胞にpS2が転写されており、他の胃粘膜のマーカーとなる遺伝子も発現していることを確認した。そこでこの細胞を用い、ルシフェラーゼ遺伝子上流に連結したレポーター遺伝子アッセイを行った。その結果、転写開始点より上流496-641bpに転写を正に、また、243-496bpと641-1628bpに転写を負に制御する領域が存在することが明らかになった。このような制御機構を人為的に操作して、胃粘膜層の維持と潰瘍からの防御や修復に役立てる手段を考案することが今後の課題である。
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