研究概要 |
赤血球期熱帯熱マラリア原虫のin vitroの細胞培養においては、合成基礎培地にヒト血清(血漿)の添加が必須であることが確立されている。同じ単細胞生物である酵母とは異なり、むしろ、多細胞生物である動物細胞に類似している可能性さえある、マラリア原虫の細胞増殖における、このユニークな点に着目し、原虫の細胞増殖機構の研究を続けている。平成11年度は、平成9,10年度明らかにしてきた、赤血球期熱帯熱マラリア原虫の細胞増殖に必須な血清中因子は、血清アルブミンに結合している特定の飽和/不飽和脂肪酸の混合物であり、パルミチン酸・オレイン酸の組み合わせが最もよいという事実が、原虫細胞一般に適応できるかを検証した。本年度は、これまで使用してきたHonduras1株に、3D7株、FCR3/Gambia株を加え、脂質フリー血清アルブミンに、飽和脂肪酸分子(パルミチン酸、ステアリン酸)と不飽和脂肪酸分子(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、γ-リノレン酸)をそれぞれ一種類ずつ再構成させ、それぞれの細胞増殖促進活性を測定した。結果、全ての株において、パルミチン酸・オレイン酸の組み合わせが最も強い活性を示した。さらに、これら3種の株について、各種の再構成血清アルブミンを用いて継代培養が可能かどうかを検討した結果、パルミチン酸・オレイン酸の組み合わせが、最もよい細胞増殖を支持した。これらの結果は、これまでHonduras 1株で得られた実験事実は、原虫細胞一般的なものであることを示唆している。最後に、3年間の研究を通しての成果は、原虫細胞の増殖に必須な血清中因子のひとつとして、血清アルブミンに結合したパルミチン酸とオレイン酸を固定でき、今後の細胞内反応の分子論的解析の基盤を築くことができたことである。
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