高等動物の形態形成に最終的に関わるマスター遺伝子であるHox遺伝子産物が、転写因子としてどのようなエフェクター分子の発現を制御し機能しているかを明らかにしようとしている。マウスHOXC4の下流標的分子として、我々はHOXC4の抗体を用いたアフィニティカラムで、この転写因子がin vivoで直接結合している遺伝子を濃縮することによって、mab21分子を単離した。これは、線虫で神経系細胞分化に関わる分子として解析がなされていたもののマウスホモログであった。しかし、細胞レベルでの機能が全くわからないこと、既知の分子とのホモロジーが無いことから、マウス個体あるいは細胞においての、このmab21の機能解析を試みた。まず、大腸菌での発現蛋白から抗体を数種類作製し、マウスにおける発現部位、組織局在の解析を行った。その結果、脊髄全体、および脳内の一部(扁桃体、中脳など)に発現が認められた。この、免疫組織化学的解析とさらに、詳細な細胞内局在の解析から、このmab21は細胞において細胞質と細胞核にも局在する分子であることが明らかとなった。とくに、標識mab21分子は積極的な核移行能を持った分子であった。バキュロウイルスによるこの分子の発現にも成功したので、今後、生化学的にこの細胞内生理機能を明らかに出来ると考えている。この分子をアンチセンスオリゴによって発現抑制することにも成功した。細胞レベルでは、劇的な生理機能は明らかになっていないが詳細な検討を現在つづけている。また、これを生体レベルでも応用することを考え、最近、exo utero手術法(マウス子宮外胎児手術法)を用いて、マウス胎児の脳室内にアンチセンスオリゴを投与し、脳内mab21の発現を抑制することに成功した。これは新たに組織部位・時間特異的に分子の発現抑制を行い解析出来る系として、有効な実験系の確立にもつながるものと考えている。今後、この多機能分子であるmab21の生理機能を詳細にあきらかにすることによって、HOX遺伝子群とそのエフェクター分子の機能関連が解れば、形態形成や細胞極性形成における細胞間相互作用の遺伝子ネットワークによる制御機能の解明という未開拓の分野に糸口がつかめるものと考えている。
|