研究概要 |
ヤマトヒメミミズを実験材料に,再生現象のみならず発生一般や形態形成における調節のメカニズムを探るための新しい研究系を構築することを目標に,平成9年度は再生可能最小断片の決定,放射線照射実験,有性生殖の誘導のほか,細胞培養へ向けての予備実験として滅菌個体の作成および卵の無菌的発生を試みた.無性生殖の砕片分離で断片化が起こる部位は各体節の前半部に1カ所ずつ存在する.自然砕片分離により得られる砕片の長さは3〜10体節のものが多いが,電気刺激で砕片分離を誘導した場合には1体節(弱)のものから,任意の長さの断片を得ることができる.ナイフによって切断した場合は稀に再生しないことおあり,断片化部位以外の切断では再生が正常に起こらない可能性も示された.断片化部位で分離した場合は、現在までのところ1体節(弱)断片からの再生だけが観察されないため,再生のための必要条件探索のためのバイオアッセイ系となることが期待される.放射線(コバルト線源のγ線)照射による再生への影響をみたところ,線量の増加に応じた分裂細胞数の減少と再生の遅れが観察された。しかし、10C/kg(プラナリアの再生抑制線量の約5倍)という高線量を照射された個体でも少数ながらも分裂する細胞が時間とともに徐々に増加するのが見られ,さらに正常に再生が起こることも観察された. 通常の飼育条件下では無性生殖しか行わない本種も,個体飼育を長期間継続して条件付けした培地成分を添加して作成した通常培地を用いて,低密度飼育を行うと有性化して受精卵を得ることができた.最適条件の下では雌雄同体で卵を持った個体が全個体の50〜60%にもなるが,有性化は一過性に終了し,その後はまた無性生殖サイクルにはいることがわかった.無菌個体の作成および卵からの無菌発生に関してはまた予備的知見しか得られていないが、クロラミンTによる滅菌が効果的であることがわかった.培養液は開発中である.
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