本年度は、主としてハムスター精子に対し先体反応誘発物質として卵透明帯を可溶化したものを投与した際の細胞内Ca反応について、その時間的空間的パターンの解析を行った。 [高解像度Ca画像解析法の確立]Ca感受性蛍光色素Ca Green-1とFura RedをAM型を用いて精子にロードし、共焦点レーザー顕微鏡により同時に取得したそれぞれの蛍光像の比を細胞内Ca濃度の指標とした。諸条件を検討し、1μm以下、0.2秒程度の分解能でCa画像の時系列が得られるまでに改良された。 [卵透明帯によって誘発される反応様式の解析]可溶化卵透明帯の投与に対し、精子頭部からCa上昇が始まり尾部には若干の遅延をもって伝播すること、また頭部内ではまず赤道部付近ら上昇が始まり約0.3秒で頭部全体に伝播するが先体内はほとんど上昇しないこと、などを確認した。この結果は透明帯に対する受容体あるいはそれに続く信号伝達系が頭部の赤道部付近に局在することを示唆している。 [電位依存性チャネルの関与の検討]高K外液により脱分極刺激をしても細胞内Ca上昇は見られなかった。また、透明帯に体する反応はL型Caチャネル阻害剤によって影響を受けなかった。従って、電位依存性CaチャネルからのCa流入はCa上昇に寄与していないと考えられる。 [膜不透過性試薬の導入法の検討]膜不透過性の信号伝達系の各種特異的阻害剤や様々なケイジド化合物を用いた実験を行うため、加工したガラスピペットを用いて細胞膜の一部を吸引・破壊することでピペット内の化合物を直接導入する方法を検討した。具体的には精子尾部先端からピペットに吸い込み、ピペットと尾部細胞膜が十分接着した後に電圧パルスをかけることによって膜を破壊する方法を試みた。しかし未だ十分な効率で導入できるに至らず、今後さらに改良していく予定である。
|