左右軸形成の最初のstepを担う分子については謎が多いが、TGF-β familyに属するnoda/やlefty/等の分子が、左右軸形成の後期に関与することを示唆する知見は近年急速に蓄積されている。これらの遺伝子は体節期の胚の左-側板中胚葉に発現し、分泌性シグナル分子をcodeすることが知られている。同じTGF-βfamilyに属する成長因子activinも、ニワトリ胚においてそのβB subunit遺伝子やtype IIa受容体が左右非対称に発現することが知られる。神経胚期のアフリカツメガエル胚を高濃度のactivin A分子を含む人工淡水に漬けると内臓逆位胚が20%程度出現することも、筆者らによって昨年見いだされた('98日本発生生物学会大会)。 これらの背景から筆者らは、神経胚期ツメガエル胚の胚側面中央の表皮の直下に、ペプチド性成長因子であるactivin A分子を極微量注射した。10-50pgのactivin Aを右側面に注射した場合、ほぼ全ての胚において内臓逆位が生じることを発見した。右-注入胚の殆どは、左右軸極性が逆転していた以外は、見かけ上、完全に正常であり、過半数が一ヶ月以上長期に生存した。一方、actvinを左-側板に注射した場合には、内臓左右軸は全く正常であった。この結果は、activinという単独の分子が、神経胚期までの左右軸極性に関する胚内部の決定を完全に消去し、正反対に書き換えたことを意味する。この実験によって、初期体節期までは、左右非対称な器官形成を行う潜在力において左右両側の組織は完全に等価であることも判明した。 ヒトの脳の機能的左右非対称は誰しも知るところであるが、間脳神経核のhabenula(nucleushabenularis;手綱核)は、日本に沢山生息するRana属のカエル、ウシガエルやアカガエルのhabenulaは左右非対称(左が大きく2-3室に別れ、右は小さく1室)であることは余り知られていない。これらの胚を得て、神経胚期にactivinを微量注入し、脳神経系の左右軸にactivinが影響を及ぼすか否かについて検討したい。
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