厚みが一層に並んでできた上皮組織中の細胞は多角形を敷き詰めたパターンを呈する。これを多角形が構成要素であるシステムと考えると、構成要素の性質によって全体を理解するための有効な道具となる。この道具を使って組織中の細胞の消滅・死、細胞の増殖によりどのようなパターンができるか調べることができる。これは生物のかたちの形成研究のこれまでにないアプローチとなる。 結晶物理学などの分野で使われているバ-テックス・ダイナミクスの考えを使って、細胞の集まってできた多角形パターンを記述できる細胞バ-テックスモデルを作製した。バ-テックス・ダイナミクスとは微分方程式で多角形パターンの頂点の動きを記述することにより、多角形パターンを扱う手法である。このモデルには、多角形の辺長が短くなることに関連する項および多角形の厚みまで考えた体積が標準より変形したことによる効果の項が入っている。細胞の中に収縮機能のあるマイクロフィラメントが働いていることを考慮したものである。今回の大きな進歩は、変形エネルギーの効果として変形の2乗を考えると自然な変形過程をシミュレートできることがわかった。この結果は日本物理学会1997年秋の分科会(10/5-8、神戸大学)で、「生物細胞組織形成の力学モデル」として発表した(長井達三・本多久夫、5pYD17)。 現在、細胞の局所的な情報だけで変形を進めることができるようプログラムを改良している。 また、3次元での細胞の充填の研究に使うために3次元バ-テックス・ダイナミクス・モデルのためのコンピュータープログラムを作成し、試運転中である。
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