我々は小倉明彦博士(大阪大)と共同で、zif268プロモーターの制御下にβ-ガラクトシダーゼやGFPのレポーター遺伝子を持つアデノウイルスを構築した。in vitroで長期海馬スライスにこのウイルスを感染させたところ、バックグラウンドが非常に高いために、遺伝子発現の誘導を測定するのが困難であった。現在、我々は、NMDAレセプターのアンタゴニストなどを用いてこのバックグラウンドを低くする薬理学的な手法を開発中である。また、我々は東京大学で長期海馬スライスの培養法を確立した。今後、m4ムスカリン性アセチルコリン受容体プロモーターの制御下にβ-ガラクトシダーゼレポーター遺伝子を発現するアデノウイルスをこの長期海馬スライスに感染させて、この受容体の遺伝子発現を調べる予定である。このプロモーターは、神経細胞内で顕著に遺伝子発現を誘導し、さらに、歯状回の顆粒細胞では発現を誘導せず、CA層の錐体細胞において特異的に発現を誘導すると考えられる。これまでは、m4プロモーターによる遺伝子発現が弱いために、神経細胞の内在のβ-ガラクトシダーゼ活性のバックグラウンドと比較して有意に上昇したシグナルが得られず、そのために、この特異性を示すことができなかった。我々は、次の方法により、この問題の解決を試みようと考えている。1)バックグラウンドが無く、強い蛍光シグナルが得られるenhanced GFPを持つ発現ベクターを構築する。2)m4プロモーターとcre recombinase遺伝子の結合により、遺伝子発現を増強する方法を開発し、それをβ-ガラクトシダーゼやGFPと結合させたプロモーターの活性化に用いる。
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