昨年度までの研究で判ったことは、大脳聴覚野の第II/III層の長期増強はNOに無関係に起きるが、第V層の長期抑圧はNO依存性であるということである。NO合成酵素に対する免疫組織化学的な染色を行ってみると、深い層の小型のインターニューロンに局在することが判明した。今年度はこの点を更に解析を進め、大脳皮質のインターニューロンが選択的に傷害されるような条件下で果たしてNO放出も傷害されるかどうかを検討した。 大脳皮質聴覚野を含むブロックを切り出して、室温で1時間ほど放置した後にスライス標本を作成しても、切り出した後に直ちにスライスした標本とほぼ変わりない電場電位が記録される。さらに我々は一時間の室温放置に先立ち、ブロックを低温(1-3℃)に45分間曝すと白質刺激による電場電位に潜時の遅い成分が現れることを見出した。この成分はGABA_A受容体の阻害剤を投与したときと同じ形状をしていることから抑制性ニューロンが何らかの障害を受けたのではないかと推定した。そこで錐体細胞の興奮性や興奮性シナプス伝達、GABA_Aアゴニストに対する反応をチェックしたが、いずれも障害が明確でなかった。また興奮性シナプス伝達をブロックした条件下で抑制性ニューロンを刺激しても抑制性の効果が見られなかった。これらの結果より抑制性のニューロンの障害が考えられたのでV層におけるNO放出を測定したところ、正常のプロセスを経て作成されたスライス標本の十分の一程度のNO放出しか記録されなかった。以上から大脳皮質では抑制性ニューロンからNO放出が放出されるということが確認された。 神経系におけるCOの作用については何らかの受容体を介してその作用が現れるのではないかと考え、検索を進めているが、残念ながら現時点では未だ明確な解答が得られていない。
|