研究概要 |
抑制性シナプス伝達の可塑性の脳内領域による差を明らかにする目的で、発達期の大脳皮質視覚野、運動野と海馬CAl領域における抑制性シナプスの長期増強の起きやすさを比較した。生後20-30日のラットから作製した切片標本の皮質中層に刺激電極を2対刺入し、それらの電極により誘発されるシナプス電位を皮質V層細胞あるいは海馬CAl錐体細胞からガラス微小電極で細胞内記録した。2対の刺激電極が異なるシナプス線維群を刺激するように両者の間をカミソリの刃で切った。灌流液にNMDA受容体拮抗薬APVとnon-NMDA受容体拮抗薬DNQXを加えて興奮性シナプス伝達をブロックし、単シナプス性抑制制シナプス後電位(IPSP)を記録した。一方の刺激電極は条件刺激の効果をテストするために用い、他方はそのコントロールとした。条件刺激としては高頻度刺激(50Hz,1秒を10秒間隔で10回)をくわえた。IPSPを誘発する閾値の5倍の電流値(5T)で条件刺激を加えると、長期増強は全ての視覚野細胞に誘発されたが(12/12)、運動野では一部の細胞に生じただけであった(2/8)。運動野では更に強い条件刺激(10-20T)を用いても長期増強の発生頻度は上昇しなかった(2/9)。また、海馬CAI領域の錐体細胞においては、どちらの強さの条件刺激を用いても全く長期増強は生じなかった(5Tで0/4,10-20Tで0/5)。この結果は、脳内領域により抑制性シナプス伝達の長期増強の生じ易さは著しく異なることを示す。
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