本研究課題では、人間で知られている盲視(blindsight)の神経機構を動物モデルを用いて明らかにすることを目的としている。大脳皮質一次視覚野を障害された患者は視覚対象を認知できない「盲」となるが、盲となった視野領域に呈示された視覚対象に対して腕を延ばす、視線を向けるという運動を視覚対象の認知を伴わないにも関わらずに正しく遂行することができるとされている。本年度の研究では、実験システムの構築、2頭のニホンザルを訓練し、盲視のモデル動物を作成する準備を完成することができた。正常ニホンザルをモンキーチェア-に座らせ、正面においたスクリーンの中央に点灯する光のスポットを注視させる。そして眼球が注視点に向いていることをビデオを用いた眼球位置計測システムによって確認し、注視点の消灯と同時に100ミリ秒だけ周辺の1点に光のスポットを点灯する。そしてサルにその点に向けて腕を延ばして触るように訓練する。そしてその時の腕の運動軌跡をサルの手首に装着した赤外線発行ダイオードの位置を軌道計測システムoptotrak3020を用いて計測し、3次元空間での軌道、速度、加速度を定量的に測定した。またサルの指がスクリーンのどこに触れたかをスクリーンにとりつけたタッチセンサーを用いて計測し、正しく触れたことを確認して報酬を与えるシステムも構築した。この腕の軌道記録の結果から、サルが注視点より左20度、右20度の点に対して腕を伸ばすときの手首の運動の速度と時間の関係はほぼ一致し、サルが関節角の使い方の全く異なる軌道の運動に際しても同様なkinematicsを持つ運動計画をしていることが明らかになった。さらに視覚対象の認知と運動能力を分離するためにBlanktrialを訓練した。この試行では、注視点の消灯後、周辺の手-ゲットが現れない試行が約20%含まれる。このときに、サルは「腕を伸ばす対象がない」ことを認知して、スクリーンの隅にある別のターゲット(うすく点灯した光の四角形)をふれなくてはならない。もし盲視の状態で、視覚認知と運動能力の乖離がおきていれば、「盲」となった視野に呈示された視覚刺激を無視して、サルはうすく点灯した四角形に腕を伸ばすはずである。このような実験システムの構築とサルの訓練がほぼ完了したので、近くサルの一次視覚野一側性摘除手術を行う予定である。
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