本研究は、遺伝子機能の欠損を原因とする疾患において、その原因遺伝子単離へのアプローチとして、欠損遺伝子を含むと考えられる環状のYACDNA断片を作製後、細胞に導入し、病態が修正されるかどうか検討することにある。本年度は、まず、マイクロサテライトマーカーを用いたアレロタイプ解析により膵癌の癌抑制遺伝子の候補領域として、第6番染色体長腕における共通欠失領域を3箇所同定し、その中でも最も高頻度(69%)のLOHを認めた領域(D6S449-D6S283)を6q21の500-kbに絞り込むことに成功した。また、胃癌、肺癌においてもアレロタイプ解析により16q24に共通欠失領域を見出した。次に、昨年まで検討していたCre-lox部位特異的組換えにより、環状のYACクローンを得るという方法から、より直接的で簡便な方法としてTransformation Associated Recombination(TAR)法によりヒトのゲノムDNAからマイクロサテライトマーカー周辺の塩基配列の情報だけを頼りに共通欠失領域を含む環状YACクローンを得ることを考案した。TAR法ではYACベクターに共通欠失領域を決める2つのマーカー周辺の塩基配列を挿入し、ヒトゲノムDNAと共に酵母細胞に導入し、酵母の高率な相同組換えを利用して2つのマーカー間のクローニングを行なう。しかしながら、今現在、期待されるYACクローンを得るに至っていない。その原因として、マイクロサテライトマーカー周辺の知られている塩基配列が200-300bpと短いため、酵母において特異的な領域での相同組換えの頻度が低いことが考えられる。マーカー周辺の塩基配列を決定し、より長いユニークなDNA断片をベクターに挿入するなどの改良を加えることが今後の課題である。
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