研究課題/領域番号 |
09878209
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井上 義夫 東京工業大学, 生命理工学部, 教授 (60016649)
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研究分担者 |
浅川 直紀 東京工業大学, 生命理工学部, 助手 (80270924)
櫻井 実 東京工業大学, 生命理工学部, 助教授 (50162342)
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キーワード | トレハロース / 臓器保存 / アガロースゲル / 細胞膜 / NMR |
研究概要 |
臓器保存ヘトレハロースを応用するためには、1)トレハロース添加により個々の細胞のストレス耐性がどの程度向上し、それがどのようなメカニズムによって起こるのが、及び2)トレハロースは細胞の集合体である組織の構造を安定化する能力があるのがどうが、という点を明確にする必要がある。本研究では、1)及び2)の問題に答えるため次の実験を行った。 1) 細胞としては酵母(S.crevisiaeの野性株)及び中性トレハラーゼを破壊した変異株を準備した。後者はこの糖を細胞内に多量に蓄積する。いずれの株についても対数期と定常期の細胞を調製し、計4種のサンプルについて熱および凍結ストレスに対する耐性を測定した。その結果、細胞の生存率とトレハロース含量の間によい相関が見出された。トレハロースの作用機構を調べるため、^1H-NMR、熱重量天秤及び等蒸気圧法を用いて細胞内の水の物性を測定した。これより、トレハロースは細胞膜やタンパク質の表面近傍に存在する構造化された水の層に侵入し、この層を安定化することが示唆された。各サンプルの水の縦緩和時間と生存率の間によい直線関係が得られたことから、細胞のストレス耐性は水の構造化によって誘起されると結論した。 2) 組織のモデルとしてアガロースゲルを調製し、その平衡膨潤度のトレハロース濃度依存性を測定した。また、その結果をマルトース、スクロースの場合と比較した。実験データをFloryの理論に従って解釈したところ、トレハロースはゲルの構造水層に侵入し、ゲル-水間の親和力を低下させることがわかった。その結果、トレハロースはゲルの膨潤を抑える効果が大きい、言い替えると、ゲルのような3次元網目構造を安定化する効果に優れていることが判明した。 以上より、トレハロースは細胞及び組織いずれに対しても安定化剤として働くと結論できる。
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