研究課題
近年の分子生物学的、遺伝子工学的手法の進歩により、循環器疾患においても、単なる危険因子の検討のみでなく遺伝子危険因子や病因遺伝子の同定が可能になり、欧米と本邦におけるこれら循環器疾患の罹患率の差は、単に生活習慣だけでなく遺伝的背景を加味にて判断することが必要であるし可能になってきた。この様な観点に基づいて、我々は、循環奇病疾患の中で欧米よりもむしろ我が国においてその発症頻度の高いとされている冠攣縮性狭心症を対象に、検討を重ねた。我々と熊本大学循環器内科の泰江教授等のグループは共同で、冠攣縮性狭心症の原因遺伝子の候補遺伝子として内皮型NO合成酵素(eNOS)遺伝子は注目した。われわれは、eNOS遺伝子のすべてのエクソンと5′転写調節領域に対して一本鎖高次構造多型(SSCP)にて解析した。その結果、第7エクソンにmissense mutation(Glu298Asp)を、また、5′転写調節領域3つの点変異を発見し、さらに、これらの変異が冠攣縮性狭心症と独立して関連することを発見した。更に冠攣縮性狭心症のみならず本態性高血圧症において、Glu298Asp変異が有意に頻度が高いことを、京都と熊本の2つの地域の症例を対象にして証明した。また、この際、正常対象のGlu298Asp変異の頻度は京都でも熊本でも同じであり、我が国においてはこのGlu298Asp変異の頻度に地域差が無いことも併せて証明した。Glu298Asp変異のeNOS酵素活性に及ぼす影響を、それぞれのクローンをクローニングしCHO細胞にトランスフェクションしてeNOS活性を測定したが、変異株で明かなこうイソ活性の低下は認められなかった。今後は、これらの変異の民族差を検討する予定であり、その予備調査としてノルウェイのオスロ大学のChistian Hall教授、あるいはメイヨクリニックのJohn C.Burnett Jr.教授と検討会を開いた。
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