音楽の神経科学

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09CE2006
• 研究機関: 新潟大学
• 研究代表者: 中田 力 新潟大学, 脳研究所, 教授 (50281720)
• 研究分担者: 杉下 守弘 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (10114513) ; 井上 多門 筑波大学, 名誉教授 (10168453) ; 木竜 徹 新潟大学, 大学院・自然科学研究科, 教授 (80115021)
• キーワード: 音楽 / 神経科学 / 機能的磁気共鳴画像 / 高次脳機能

研究概要

研究施設の確立
本プログラムは平成9年度に中核的研究拠点(COE)形成プログラムとして出発したものである。COE形成プログラムの主旨は「卓越した研究拠点の形成」にあり、この点で、研究遂行のための助成を主な目的とする通常の「科学研究助成」とはニュアンスを異とする。すなわち、本プログラムの責任者には研究の進展のみならず、研究体制と施設の確立とが求められている。最先端プロジェクトにとって、目的とする解析を行うための解析装置の改良、新しいalgorithmを含む方法論の開発は必須の事項であり、本プログラムにおいても、まずその主眼はhardwareを中心とした研究基盤の確立、研究施設の充実化に重点が置かれた。その結果、平成14年度までに、3.0T装置3台の導入、128チャンネル高密度EEG topography装置の設置、64 CPU supercomputerによるこれらの装置の統合、幾つもの新画像処理algorithmの開発などを完了し、国際的に一、二を争う研究施設を完成させている。その中には、本プログラムで、設計、開発された、世界で唯一の縦型3.0T fMRI装置も含まれている。当初、5年間の予定で出発した本プログラムは、平成14年度から2年間の延長が認められ、現在、COE施設の統合に加え、次世代装置として各国が開発競争を続けている7.0T装置の開発、導入を開始し、128CPU supercomputerをbaseとして、世界の研究者をinternetで結びつけるvirtual laboratoryの形成のための作業をほぼ完了した(詳細については、研究実績報告書(冊子)を参照されたい)。
ヒト脳機能解析
ヒト脳機能解析の各論においては、本プログラムは当初から、ヒト特有の脳機能、例えば、言語、音楽、利き腕、などをtargetに絞って研究を続けて来ている。これまでに、第二言語の機能処理、視覚言語と聴覚言語の機能処理相違、音楽と言語の同一性と異質性、感覚的三次元空間処理と運動的空間処理、随意対不随意運動、ambidexterityの意義、絶対音感と脳機能などに加え、motor re-organizationのprocess、dyslexiaの機能異常、分裂症の機能異常、など、様々な病態解析においても多くの成果を挙げている。また、囲碁の機能画像を中心とした、感性への科学的、客観的アプローチも開始し、subliminal感覚への科学的証明を手がけている。これらはすべて、shot-gun的研究法に頼り続けて来たこれまでの脳科学とは一線を画する、「脳機能解析の数理化プロジェクト」から派生したものである。
本研究リーダーは米国滞在中、脳形態の偏微分方程式化を開始し、平成12年度にはその完成を見た。その後、この「形態と機能の同一性」という生体機能におけるcentral dogmaに適合したはじめての脳機能理論を確立し、brain chipと呼ばれる連合野の機能unitを提唱した。本プロジェクトでは、この理論(Vortex Theory of the Brain)に基づいた、数理神経科学と実験神経科学の融合を目指した、幾つもの新プロジェクトも遂行している。
脳機能解析法の開発としては、これまでに、ICS法、lambda chart解析、fMRA、神経繊維の自動追跡algorithmなどを完成させ、一般への普及を図るためにscriptの配布を行っている。Scriptの配布のみでは解決しないalgorithmの一般への普及のためには、本拠点のsupercomputerにinternetを介してのaccessを許可するvirtual laboratory環境をほぼ完成した。また、7T装置の完成を睨んで、情報理論に基づいた機能画像処理の新algorithmの開発に着手した。これは、二次元空間における統計学(vector statistics)という新分野の開発に繋がるものである(詳細については、研究実績報告書(冊子)を参照されたい)。

研究成果

• [文献書誌] Nakayama T, Fujii Y, Suzuki K, Nakada T: "The primary motor area for voluntary diaphragmatic motion identified by high field MRI"J Neurology. (in press).
• [文献書誌] Ohtake H., Shimohata T., Terajima K., Kimura T., et al.: "Adult-onset leukoencephalopathy with vanishing white matter associated with a missense mutation in EIF2B5."Neurol. (in press).
• [文献書誌] Kwee I.L., Nakada T.: "Dorsolateral prefrontal lobe activation declines significantly with age : functional NIRS study."J Neurol. 250. 525-529 (2003)
• [文献書誌] Nakada T.: "Clinical Experience on 3.0T Systems in Niigata : 1996-2002."Inv Radiol. 36. 377-384 (2003)
• [文献書誌] Suzuki Y., Matsuzawa H., Nakada T: "Feasibility study of single region lambda chart analysis for pyramidal tract physiology."J Neurol. 250. 1185-1189 (2003)
• [文献書誌] Suzuki Y., Matsuzawa H., Kwee IL., Nakada T: "Absolute Eigenvalue Diffusion Tensor Analysis for Human Brain Maturation."NMR Biomed. 16. 257-260 (2003)
• [文献書誌] Itoh K., Suwazono S., Nakada T.: "Cortical Processing of Musical Consonance : an Evoked Potential Study"Neuroreport. 14. 2303-2306 (2003)
• [文献書誌] Itoh K., Miyazaki K., Nakada T.: "Ear advantage and consonance of dichotic pitch intervals in absolute-pitch possessors."Brain and Cognition. 53. 464-471 (2003)
• [文献書誌] Suzuki K., Matsuzawa H, Igarashi H, Watanabe M., Nakayama N., Kwee I.L., Nakada T.: "Independent component Analysis of Dynamic Contrast Enhanced MRI Time Series : φ-MRA."Magn Reson Med Sci. 2. 23-27 (2003)
• [文献書誌] 中田 力, 伊藤浩介: "音楽の脳内機構と失音楽"Clin Neurosci. 21. 796-798 (2003)
• [文献書誌] 中田 力: "高磁場MRI"医学物理. 23(supp 4). 1-11 (2003)
• [文献書誌] 中田 力: "複雑系としての脳科学"分子精神医学. 3. 269-275 (2003)