強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)の相図について研究を進めた。特に、強い背景磁場の下での非閉じ込め相転移と真空では自発的に破れたカイラル対称性の回復(カイラル相転移)がどのように絡み合うか、という点に着目して研究を進めている。この観点に基づいて、2010年度には(1)高エネルギー重イオン衝突でのカイラル磁気効果、(2)高密度物質におけるカラー・フレーバー・ロックト相(CFL相)における集団モード、(3)QCD相図の臨界終点等について研究を進めてきた。(1)は近年の相対論的衝突型重イオン衝突型加速器(RHIC)における重イオン衝突でその効果が議論されている新たな動的効果である。また(3)はRHICの低エネルギープログラムやドイツで新たに建設が予定されている反陽子・イオン研究施設(FAIR)での探索が期待されるとともに、マグネターなどの強磁場の中性子星やブラックホール形成過程でのコンパクト天体現象においても観測の可能性がある。このように実験や天体観測で実際に観測しうる物理量においてQCD物質とその相転移の特徴的な性質を調べることはRHIC、FAIR、J-PARC、大ハドロン衝突型加速器(LHC)での実験的研究を進める上での課題提案にもつながる。また、1編の論文では(4)低エネルギーへのmediationをもつ超対称性理論において、プラナー対称性をもつ非幾何学的ソリトン解についての研究も発表した。
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