重金属耐性は複数の遺伝子により支配される形質である。申請者らは、これまでに銅やカドミウムに対する応答遺伝子や、集団遺伝学的構造に関して研究を進めてきた。本研究は、特にシロイヌナズナをモデルとして銅・カドミウムを中心とする、遺伝子発現の品種間差解析や、F2(交配集団)の遺伝解析を通じて、未知の重金属耐性を解明することを目的とした。先ず比較マイクロアレイ解析を行い、銅やカドミウム処理で誘導される遺伝子の多くは、ストレスの強度によらず類似性が高いことを見出した。この遺伝子はカドミウムの場合、過酸化水素応答遺伝子と極めて類似性が高く、カドミニウムが活性酸素代謝の撹乱をターゲットにすることが明確となった。一方、銅に関しては、銅過剰で誘導される鉄欠乏クロロシスに明らかな品種間差が存在することを見出した。これは、銅の吸収・転流システムが、鉄の輸送・転流と共制御を受けているためと考えられ、実際に鉄吸収に関わる重要遺伝子の転写レベルが、銅過剰では抑制されることが明らかとなった。これらの知見を基に、ゲノム配列が解読されているいくつかの系統の応答を解析すると、クロロシスの発生程度や銅耐性程度が、遺伝子発現との関係で説明できる可能性が高いことが明らかとなった。逆遺伝学的な解析など、遺伝子を特定するために必要な項目を終了することができなかったため、今後も継続して研究を進める必要があるが、重要な栄養元素間の拮抗作用を分子レベルで理解するための基盤を構築することができたと考えている。
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