研究概要 |
本研究の目的は、1949年以後の中国の母子衛生や出産に関する政策と実施状況、医療従事者、特に女医養成の具体的状況、出産した女性の反応などを文献調査とフィールド調査によって解明することである。21年度に引き続き、文献調査と同時に、中国の都市と農村で、医療従事者(女医6人)および出産経験のある女性(26人)に聞き取り調査を行った。まだ資料整理の段階ではあるが、初歩的分析を行った結果は以下の通りである。 1、建国初期北京市の母子保健工作網は、国民政府期の地段保健・三級保健をベースにしており、母親会も含めて母子保健システムの基盤はすでに民国期で作り上げられ、そこで蓄積された経験、ノウハウも受け継がれていた。 2、建国初期人材の深刻な不足の中で、政府は助産士の地位を引き上げ、女性医療従事者を抜擢・活用した。助産士は再訓練を受けた後、医師資格を与えることが出来た。これは、医師(男性)の非協力とも関係していると思われるが、男女平等政策、医療内部権威の打破などとも関係しており、極めてイデオロギー的な結果でもある。こうした政策による専門職内部の秩序変化、ジェンダー秩序の形成については、引き続き研究していきたい。 3、農村での病院出産は母子死亡率の減少という国家目標を実現するために講じられたものであり、その結果、女性の生殖健康をもたらした一方、人口政策/管理、医療改革、地域格差の是正などの国策に絡めとられ、女性身体/主体の不在という側面もあった。病院分娩率の上昇は、女性経験の無視、女性身体/主体の不在を代償としている点を看過してはならない。ただし,「女性の不在」という仮説については、さらなる実証的研究を重なる必要がある。
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