2010年、予想もできなかった新資料の発見が相次いだ。まず、第一に『捷解新語』の重刊本・文釈本の附録として知られていたものが独立した書物の形でバチカン図書館に現存することがわかったが、数多くの補筆のおかげで18世紀末の朝鮮語音韻の好資料となる一方、欧州への伝来とその時期をほぼ明らかにできたことによって附録の成立時期に関する今までの説に修正の必要も生じた。これらの事実を11月の発表で示した。続いて、漸くシーボルト旧蔵『倭語類解』の所在を突き止めることができた。日本と韓国にそれぞれ1部所蔵されていることは周知のとおりであるが、今回新たに発見できたマンチェスター・ジョンライランズ図書館蔵本で、資料として補い合う刊本が合計3部伝わっているということになった。また、現場調査でわかったように、このマンチェスター本はメドハーストがその『朝鮮偉國語彙』(1835年刊)の底本に用いたものであるが、長らく不明であった後者の成立過程をほぼ解明することに成功した。 新出資料の研究を除外すれば、主に元の計画どおり朝鮮資料の全文データベースの作成が本研究の中心となっていた。データ入力が未完の部分もあるが、全体としては早くから利用可能であったため特に表記・音韻面での調査に大きく貢献した。日本語のハングル表記で最も難解な問題として、子音の場合はいわゆる並書表記があるが、朝鮮資料以外の外国資料に反映されている母音の無声化や脱落と関連づける新解釈を試み6月・12月に発表した。続いて、母音について特に問題となる日本語のエ列音節のハングル表記に焦点を移し、ラング説などのように口蓋的エ列音の存在を朝鮮資料からは立証できないといったことを示すその調査の結果を3月に発表した。上記の研究成果を2011年以内論文としてまとめる予定である。 また、朝鮮語側の音声的な事実を明らかにするのに大きく寄与している外国資料の調査の一環として、朝鮮語史において従来さほど注目されてこなかったローマ字資料を整理し、広く西洋における朝鮮語研究史をテーマにした論文の形でまとめた。
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