本年度は、モンゴル・ウランバートルにて採取したエアロゾル試料を用いて、アジア大陸内陸部における都市エアロゾルの有機物の測定をGCにより行った。まず、試料から水溶性有機物を純水にて抽出し、ブチルエステル誘導体化を行った後、低分子ジカルボン酸、ケトカルボン酸、ジカルボニル類をガスクロマトグラフィー・質量分析計を用いて測定した。この結果を解析し、アジア内陸部における大気エアロゾルの有機物組成の特徴を明らかにした。その結果、モンゴルエアロゾル試料中に、シュウ酸などジカルボン酸を検出したが、その中で、テレフタル酸がしばしば最も高い濃度を示した。これまで中国・日本で採取した都市エアロゾル、海洋エアロゾル試料では、シュウ酸が常に主成分ジカルボン酸であったが、この結果は、それとは大きく異なるものであった。これまでの文献を検索しデータを解析した結果、テレフタル酸の起源はプラスチックなどの燃焼生成物であることがわかった。モンゴルでは、厳冬期に石炭・薪ストーブでプラスチックゴミを燃やすことが知られている。テレフタル酸はペットボトルやプラスチック製の買い物袋の主成分物質であり、それらが燃焼過程で分解し、大気中に放出されたものと解釈された。この結果は、現在、論文としてJ. Geophys. Res.に投稿して査読中である。 また、モンゴルエアロゾル試料から純水で分離した水溶性画分をタンデムDMA装置にかけて、その吸湿特性の実験を開始した。予備的な実験の結果、モンゴルのエアロゾル試料は、海洋エアロゾル試料の結果とは大きく異なることがわかった。おそらく、その吸湿特性は有機物の寄与により大きく規定されている可能性がある。
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