研究課題/領域番号 |
09F09238
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山内 薫 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授
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研究分担者 |
LOTSTEDT Erik V. 東京大学, 大学院・理学系研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | レーザーと分子の相互作用 / 古典モデル / レーザー光によるイオン化 / 数値シミュレーション |
研究概要 |
今年度は二つのテーマで研究を行った。一つは、高強度パルスレーザーと分子の相互作用の記述に関するものである。このような分子形においては、量子ダイナミクスを記述する方程式を用いて数値的な解をも求めることは非常に困難なため、全て古典力学を用いてモデル構築することを提案した。すなわち、電子及び原子核は古典的な点粒子として記述する。しかし、このような古典力学による方式では、安定して存在するモデルを構築できない。我々は、距離の小さい電子と陽子の古典力学的表現を変形し、量子力学におけるハイゼンベルグモデルを記述することによって、安定して存在する古典モデルが構築できることを示した。このモデルを超高強度短パルスレーザー中の三原子分子H_3^+に適用したところ、実験で得られた運動エネルギースペクトルを定性的に説明することができた。また、このモデル計算により、短パルス中の電子と陽子のダイナミクスについて新たな知見を得ることができた。すなわち、複数の解離チャンネルが起こる確率は、電子のレーザー場による起状態の度合いに比例するということである。さらに、これまでに報告されていない新しい解離チャンネルを見出すことができた。この研究によって、古典物理学の理論を用いてレーザーと分子の相互作用を記述することが充分に可能であることが示された。また、多原子分子において安定した古典モデルが示されたのは、この研究が初めてであり、Physical Review Lettersに研究結果の掲載が検討されている。 第2のテーマは、低周波数のレーザー場における炭化水素系分子のイオン化に関するものである。最近の実験では、エチレンのような小さな分子はやや強度の高い低周波数のレーザー場において、効率的にイオン化されることがわかっている。レーザーパルスの時間内に、10個の電子がエチレンの中性分子から放出されると推測される。この高効率イオン化を説明するために、アセチレン分子の一次元モデルに関する計算を行った。予備的計算の結果、炭素と水素原子間の距離が平衡距離のおおよそ2倍に引き伸ばされたとき、イオン化の確率は大きく増強された。我々の計算では、まず、レーザーパルスの立ち上がりに伴うイオン化によって、炭素と水素の間の結合が弱まり、次には結合距離が伸び始めることが示された。イオン化が増強する値まで炭素と水素の間の距離が伸びた時、数個の電子が効率的に放出される。次は、この結果に基づいてモデルを発展させ、一般の多原子分子にも応用できるようにする予定である。現在、このテーマについて、学術ジャーナルへの投稿論文を執筆中である。
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