本研究は、キチンを由来とする新規バイオナノファイバーの調製法と特性解析に関するものである。これまでに本申請者は、イカの甲に由来するβ-キチンを用いて、弱酸性下の機械的な解繊処理により幅4nm、長さ数ミクロンの結晶性ナノファイバーの調製に成功している。これまでの検討で、本手法はβ-キチンにのみ適用可能であり、食品分野で主に廃棄されている、安価で入手しやすい、甲殻類の外骨格を由来とするαーキチンでは難しいことが判明していた。 そこで本研究では、本手法とナノファイバー表面の改質技術とを組み合わせることによって、汎用なα-キチンを出発物質とするナノファイバー調製法の構築を目的とした。また、本研究で得られた各種キチンナノファイバーについて、機械強度、光学特性、ガスバリア性、生理活性等の評価を行い、当該材料の基礎的な特性をまとめ、各種応用展開の可能性を模索した。本手法によるキチンのナノファイバー化は、キチン生来の表面構造を活かすことで達成されており、キチンの有する生理活性、生体適合性、抗菌性等の強みを失っておらず、ヘルスケア分野、医療分野等への展開が期待される。 本年度ではα-キチンの脱アセチル化について詳細な検討を行った。アルカリ濃度や温度等の条件を制御することにより結晶性ナノファイバーの表面を選択的に脱アセチル化できるような最適条件を見出した。そして、イカの甲を由来とするβ-キチンと同様、弱酸性下で解繊処理を加えて微細化し、得られたナノファイバーの幅や長さ、分散性等を評価した。脱アセチル化したα-キチンの結晶化度と脱アセチル化度を測定し、α-キチンが弱酸性下の解繊処理だけではナノファイバー化しない理由を考察した。
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