本研究は、キチンを由来とする新規バイオナノファイバーの調製と特性解析に関するものである。これまでにイカの甲を由来するβ-キチンにpH4程度の弱酸性下で機械処理を加えると、幅4nm、長さ数ミクロンの結晶性ナノファイバーに分散できることを見出している。しかし、本手法はβ-キチンでのみ成功しており、安価で入手しやすいα-キチン(甲殻類の外骨格等)では難しいことが判明していた。そこで本研究では、上記分散手法とナノファイバー表面の改質技術とを組み合わせることによって、汎用なα-キチンを出発とするナノファイバー材料を開発することを目的とした。 本年度は、α-キチンの脱アセチル化について詳細な検討を行った。アルカリ濃度や温度等の条件を精査したところ、α-キチン試料を33%水酸化ナトリウムに90℃で2時間浸漬するだけで、結晶性ナノファイバーの表面を選択的に脱アセチル化できることが判明した。この処理では、α-キチン試料の結晶サイズ及び結晶化度に変化はなく、脱アセチル化により生じたアミノ基のみ増量しており、収率も85%以上と高いものであった。この表面改質されたα-キチン試料に弱酸性下で機械処理を加えたところ、幅6~7nm、長さ100~400nm程度のナノファイバー単位に分散させることに成功した。 本工程で得られたα-キチンナノファイバーには、従来法では解消することができなかったナノファイバー間の凝集はほとんど見られず、ナノファイバー単位で安定に水に分散する。さらに、キチン生来の構造を活かしてナノファイバー化しているため、キチンの有する生体適合性や抗菌性等のバイオ材料としての強みを失っておらず、生活物資等の構造材用途だけでなく、医療用途または食品添加物等への展開が期待できる。例えば、この新規キチンナノファイバーのフィルムは、従来のキチン系フィルム材料よりも優れた機械特性を有することが判明した。
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