本研究はヒ素の蓄積や輸送に違いを示す各種イネ品種を用いて、農業上有用なヒ素低減遺伝子を同定することを目的としている。ヒ素毒性の被害は現在も中国、バングラデシュ、インドなどに存在し100万人以上が影響を受けていると推定されている。これら地域での主食であるイネから農業上役立つヒ素濃度を低減することのできる遺伝子や遺伝子座を同定することは、ヒ素輸送の基礎的知見としてだけでなく、応用上も極めて大きな意義を持つものである。Dr.Duanのこれまでのデータを参考にしつつ、受け入れ研究者の研究グループがこれまでに蓄積してきたノウハウを用いて、ヒ素蓄積や輸送の違いの原因についての解析を生理的、分子遺伝学的実験手法を駆使して行う計画として開始した。H21年度においては、まず、これまで中国でDuan博士が関与しつつ行われてきた各種イネのヒ素濃度データを解析することから開始した。平成21年度の実験データによると、それまでの試験で違いの見られた系統でもそれほど明確な子実のヒ素濃度の違いが見いだされなかった。この原因は明らかではないが、天候や土壌の性質、水管理の問題である可能性は考えられる。しかしながら、当初の計画にあった、各種イネのヒ素濃度の系統間の差異を元にした解析を進めることが難しくなったため、ヒ素の吸収や移行に関与する可能性のある遺伝子をリストアップし、どの遺伝子に着目した研究をすべきか検討した。その結果、アクアポリンに相同性を示す遺伝子やリン酸輸送体遺伝子を候補にすることとし、各種系統の収集や解析に必要なクローンの整備などを進めた。
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