本年度は、遺伝子解析データの統計解析手法のひとつであるBayesian Network Modelを、大腸癌データに用いることにより、転移に有意な影響を与えるリスク因子を特定する研究を行なった。 対象は日本大腸癌研究会に所属する8病院の大腸癌患者111例(男性:62例、女性:49例)である。収集されたデータは、手術時年齢、性別などの患者属性データ以外に、深達度、癌浸潤様式、ぞく出、脈管侵襲、リンパ管侵襲など16個のリスク候補因子と結果因子である転移の有無を検討の対象とした。Bayesian Network Modelにより確率構造図を作成し、各リスク因子が転移の有無にどのように関連しているのかを示した。最終的な結果として、Bump、PLV、degreeおよびBVIの4因子が転移に重大な影響を与える因子であることがわかった。年齢と性別を除く他の因子は、転移に対して中程度の影響しか及ぼさないこともわかった。4つの有意なリスク因子のうち、Bumpありの症例はなしの症例に比べて転移確率を約3倍高める(0.111から0.306に上昇)ことが推測された。また、PLV陽性は陰性に比べて転移確率を0.111から0.259に高めることがすい差臆された。 将来、大腸がん患者の手術所見、病理学的所見、遺伝子解析の結果等から肝転移などの確率予測を、個々の症例に対して行うことが可能となる。本研究の適用経験から、Bayesian Network Modelに入れる変数の個数や特性(連続データ、順序データ、離散データの別)と症例数の多い少ないが解析結果の信頼性にどのような影響を及ぼすのか、という新たな統計学上の研究課題が見出された。これらの課題の解決により、遺伝統計学の新たな手法開発につながると考える。 本研究成果は、国際的なオンラインブックに掲載されることが決まっている。
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