研究概要 |
個々の患者の生存予後予測、即ち、遺伝子解析データ、先天的要因、診断時の臨床所見等から癌摘出手術を行ってから再発・死亡するまでの生存率曲線を予測することが、臨床の現場では有用となる。生存時間解析での打ち切り症例(フォローアップ途中に観察が打ち切られた症例のこと)を考慮に入れた多変量回帰モデルにより、個々の患者の無再発率や生存率を予測することが可能である。そこで、それぞれの疾患での独立で有意な予後規定因子から、ある経過年後の生存率(たとえば、5年生存率)を臨床の現場で推定する方法を検討した。 前立腺癌患者の生存率予測を行った。対象症例は211例の根治的前立腺切除症例である。癌摘出後、癌が再発するまでの時間を評価尺度とした。収集されたデータ項目は、PSA値(他の論文を参照して5つのカテゴリーに分割)、Gleasonスコア、癌の深達度分類(T1/T2,T3a)、PPB、手術時年齢(50歳未満、50歳以上)、の5因子である。また、これら5因子を使い米国で開発されたUCSF-CAPRAスコア(0点から10点まで)が計算された。無再発率を予測するために、多変量生存時間解析手法のCoxの比例ハザードモデルを用いた。また、Harrellの一致係数(c-index)が予測精度を定量的に評価するために用いられた。比較のために、D'Amico分類やCAPRAのリスク分類も計算された。 CAPRAスコアによる低リスク群、中間リスク群、高リスク群の人数は、それぞれ85例(40.3%)、106例(50.2%)、20例(9.5%)であった。D'Amicoのリスク分類の低リスク群、中間リスク群、高リスク群の人数は、それぞれ66例(31.3%)、89例(42.2%)、56例(26.5%)であった。cAPRAスコアとD'Amicoのリスク分類の一致係数(c-index)は、それぞれ0.755と0.713でありCAPRAスコアの方が予測精度が高いことが示唆された。これらに基づき、日本人にあった予後予測モデルの構築がなされた。
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