本年度は、日本語についてしばしば問題にされる可算/非可算の区別について原理的研究を行った。この方向での研究は、関連する他分野の研究者との交流を可能とし、有意味であった。 この理論的研究は、次年度以降に予定されている、日本における社会科学の移入および発展における日本語の役割について検討するための予備作業でもある。研究分担者は、社会科学的思想への日本語の影響という問題を考えるうちに、言語と思考という区別そのものの問題性を深く意識するようになった。その理由は、ひとつに、今年度の研究がもっぱら理論的な側面を深く掘り下げる結果になったためである。 日本の社会科学の歴史においては、ウェーバーとマルクスの影響が圧倒的であるが、ウェーバーの場合、自然言語からの影響を肯定的であり否定的であれ立証することはきわめてむずかしい。マルクスの場合には一定の手がかりがないわけではないが、言語からの影響とそれが表現する思想とを切り離すことは困難である。だが、他方で、「国家」および「社会」についての日本固有の概念が、ヨーロッパの社会科学的研究を日本に移入される際に与えた影響は明らかに存在すると思われる。
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